品種改良ってどうやるのか 栽培記録 PlantsNote 
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トップページ > 特集 > 品種改良ってどうやるのか

1.育種とは

今回は最近の育種の方法について紹介していこうと思います。
ちなみに皆さんは育種という言葉をご存知でしょうか?
私のコラムにちょくちょく出ているかと思いますが、ちゃんと説明していませんでしたね。育種とは植物や動物の今ある品種をより優れた形質に改良することで、品種改良ということもあります。ちなみに育種を行っている人を育種家もしくはブリーダー(Breeder)と呼びます。ブリーダーというとピンと来る人もいるんじゃないでしょうか?

では野菜の育種家はどうやって品種改良を行っているでしょうか?
現在行われている育種の方法を少しご紹介します。

2.交雑育種法

まず2つの異なる品種を交配し、雑種を作ります。作られた雑種同士でランダムに交配させ、目的の形質を持っている系統を選抜します。目的の形質をもっている系統が見つかると、あとはひたすらそれ同士を交配します。このひたすら交配するプロセスを固定といいます。
なぜこの固定が必要かというと、選抜されてすぐの系統は遺伝子が安定していないからです。少し第2回のコラムに書いたことを思い出してください。遺伝子の状態は基本的に3種類あります。Aという遺伝子を例にすると、Aを2つ持っている(A/A)、1つだけ持っている(A/-)、まったく持っていない(-/-)の三つとなります。このうちA遺伝子が固定された状態というのはAを2つ持っている(A/A)状態です。この話をきっちり説明すると難しくなってしまうので、とりあえずほぼすべての遺伝子が2つずつある状態にすると品種として安定するということだけ覚えておいてください。※また後日きっちりと紹介します。
この方法では品種改良におよそ10年かかります。つまりひとつの品種を作るのにかなりの労力が注ぎ込まれているということです。この方法が現在一番用いられる育種の方法です。

3.マーカー支援選抜(MAS)

最近、現場で注目を浴びている(?)育種法です。これは上の交雑育種法を発展させた手法で、最初はほとんど同じですが、目的の形質を持っているかどうか判断するためにDNA鑑定を行います。
目的の遺伝子の一部もしくはその周辺のDNAがあるかどうかを調べ、あればその遺伝子を持っているということがわかります。この調査に用いられる手法の一つにPCR法というのがあります。このPCR法とは、特定のDNA領域だけを特異的に増幅させる手法です。ですので、PCRを行ってDNAが増えれば目的の遺伝子をもっているということがわかります。ちなみにこのPCR法は犯罪捜査の容疑者特定の際にも使われていたりします。
MASの優れている点は、すばやく確実に目的の遺伝子を持っているかどうか調べることが出来る点です。調べたい系統の種を植えて、出てきた芽からDNAをとって鑑定をすることで、すぐに結果を得ることが出来ます。そのため野菜を完全に育てきってから形質を確認するという手間を省くことができます。

4.突然変異育種法

放射線や化学物質を用いて突然変異を起こさせ、有用な形質の変化が起こった個体を選抜します。基本的には元々あった遺伝子がつぶれて機能しなくなることで突然変異体になります。
茨城県にはガンマーフィールドと呼ばれる(独)農業生物資源研究所の放射線育種場があり、日々突然変異の作出が行われています。ここで新たに作られた品種として、コメではコシヒカリよりももちもちした食感のあかねふじ、紫色やオレンジ色の菊、年中緑色の芝、病気に抵抗性を持ったナシなどです。
斯く言う私も、学生の頃はコムギに放射線を照射して突然変異を起こさせ、ある遺伝子がどのように変化するか研究していました。

5.倍数性育種法

第5回のコラムで紹介した種なしスイカがこれに該当します。染色体の数を通常よりも増やすことで、実を大きくしたり、種をつけなくするといった改良ができます。

6.遺伝子組換え法

野菜の栽培で有用な遺伝子を人工的に導入し、野菜に様々な能力を獲得させます。導入することのできる遺伝子は野菜だけでなく、動物や菌、細菌と幅広く対応しています。その一方でまだまだ発展途上の技術であり、作物への遺伝子組み換え技術の利用に対して議論が続いています。
特定の遺伝子を野菜に導入するにはおもに、細菌を使う方法、ウイルスを使う方法、金粒子に遺伝子をくっつけて植物体に打ち込む方法の3つがあります。これらはすべて非常に成功確率が低く、まだまだ運に左右されている状態です。今のところ、どういう状況になると植物体に入った遺伝子が定着するかわかっていません。まだまだ研究を続けていかなければいけない技術です。
日本では遺伝子組換え作物は研究機関を除いてほとんど植えられていませんが、アメリカでは主流となってきつつあります。植えられている野菜は、除草剤耐性を持った大豆やトウモロコシ、殺虫剤の成分を野菜自身が作り出すことの出来るトウモロコシや綿などがあります。

どうやって品種が改良されているか、少しは見えてきたでしょうか?
実際のところ、今回ご紹介したような「品種改良の現場」はなかなかお目にかかることができませんよね。
いっそのこと、アマチュアブリーダーを目指すのもありかもしれませんね。

それでは、次回のコラムでまたお会いしましょう!!