品種として名乗るために 栽培記録 PlantsNote 
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1.品種とは

栽培をしていると、色々な品種名に出会うかと思います。おそらくそういった中で、品種とはこういったものだろうなというイメージは持てていると思います。ですが念のため、きっちりと確認しておきます。
生物学辞典によると、品種とは『育種学において、飼養・培養あるいは栽培生物の実用的形質に関して、他の集団とは区別しうる遺伝的特性をもった集団』と定義されています。ようは、見た目や味などの形質が同じ野菜たちを一つの集団としてくくったものが品種です。
トマトの桃太郎ですと、分類上ではナス科ナス属トマト’桃太郎’となっていまして、「トマト」という種名の下の分類に品種「桃太郎」があります。トマトと一口に言ってもミニトマトや黄色いトマトなど色々な種類がありますよね。そういった種内での違いを品種という分類で区切って、同じ品種ならば同じ野菜が出来るように(少なくとも日本では)保証されています。

2.品種登録で育種家の権利保護

さて、別の回のコラムなどで紹介してきた新品種の作成方法を駆使して、新しい品種を作ったとします。では、この新品種の種に名前をつけて売りましょう。インターネットを使って日本中に売りましょうか?? でも、ちょっと待ってください。この段階では新品種は完全に法律で守られておらず、他の人にコピーされてしまう危険性があります。そもそも新品種につけた名前は公的な名称としては認められていません。新品種として国に認めてもらうためには品種登録を行う必要があります。
品種登録を行うことで新品種を作成した育種家は育成者権を保有し、新品種の独占的な販売権を得ます。他にも育成者権を行使して、農協などの第三者に新品種の種苗のライセンス生産を行う権利を与えることができるなど、少し特許と仕組みが似ているかと思います。この育成者権は野菜ですと登録日から25年間有効になります。日本ではこのように、品種保証制度というものが存在します。

では品種登録を行うにはどうすればよいでしょうか? これは種苗法で定められている「品種登録の要件」を満たすことで実際に登録されます。品種登録の要件として、
1)見た目や味、対病性などの重要な形質が既存品種と明確に区別できること
2)蒔いた種から同じものが出来ること
3)何世代増殖を繰り返しても同じものができること
4)出品中の新品種を他人に譲渡していないこと
5)品種の名称がすでに既存品種とかぶらないもしくは紛らわしいものではないこと
といったものが挙げられています。

3.遺伝子2セットずつが安定の秘訣

品種として登録するためには、品種の固定を行う必要があります。固定された状態とは「品種登録の要件」の1)、2)、3)を満たしている状態です。この状態にするためには、品種を構成する遺伝子が2セットずつである必要があります。遺伝子を2セットずつ持つことで、その遺伝子が安定して機能を発揮し、また常に子供にその遺伝子を受け継がせることが出来ます。この仕組みについて説明していきます。

まず動物や植物は染色体を2セットずつ持っているということを思い出してください。2セットのうち片方は父親由来、もう片方は母親由来の染色体となっています。遺伝子というのはこの染色体上に乗っかっているので、例えば遺伝子Aの持ち方は
①A/A(2セット)
②A/- (1セット)
③-/- (なし)
の3パターンがあるというわけです。遺伝子は優性遺伝子と劣性遺伝子の2種類あります。このうち優性遺伝子は①2セットと②1セットの状態で機能を発揮します。一方で劣性遺伝子の場合は①2セットの状態でしか機能を発揮しません。そのため、各々の遺伝子を2セットずつ持つことで安定して目的の形質が現れます。

また次世代を作るために、(おしべの中にある)花粉や(めしべの中にある)胚が必要なんですが、これらは染色体を半分しか持っていない細胞で出来ています。そのため、遺伝子は1個しか持っていません。では仮に遺伝子Aのパターンが②(A/-)の植物の場合、花粉の遺伝子構成はどうなっているでしょう? これはAを持っている確率:持っていない確立=1:1となってしまい、Aが遺伝するかどうかは運次第です。このため、次世代に確実に遺伝させるために遺伝子を2セット持つ必要があります。

以上から、各々の遺伝子を2セットずつ持つことで、品種として安定したもしくは固定された状態となります。

ということで、実は野菜の品種には権利が絡んでいて、野菜の種や苗を買うことで権利者に対価を支払っていたわけです。
実際のところ、一つの品種を作るのに10年ほどかける必要があるので、当然といえば当然でしょうね。もしもこれから長いスパンで栽培を行う予定のかたは、片手まで育種を行ってみてはどうでしょう?? 助言はさせていただきますよ!