リン酸はエネルギー通貨!? 栽培記録 PlantsNote 
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トップページ > 特集 > リン酸はエネルギー通貨!?

1.リンは何に使われている?

リン、特にリン酸は植物の生育に非常に重要だというのは、野菜栽培を少しやっただけでもわかるかと思います。よく3大栄養素として窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K)といいますよね。でもこのリン酸はいったい何に使われているかというのは目に見えにくいこともあってわかりづらいですよね。

それもそのはずで、リン酸は主に植物体の内部で利用されるものだからです。
使われ方は大きく分けて、
① エネルギーの受け渡しをする箱(充電池のイメージです)
② 体内のpHの急激な変化を抑制する緩衝材
③ 酵素の活性化の制御
④ 細胞膜など生体膜のメインとなる構成要素
となっています。

1つずつ簡単に説明して行きます。

① エネルギーの受け渡しをする箱
生物の体内では様々な化学反応が起きています。例えば植物が行う光合成では、光を受けて最終的に糖分を作りますよね。こういった化学反応を進めるためにはエネルギーを使って物質Aを物質Bにするといった感じでエネルギーが必要になってきます。このエネルギーの受け渡しを行う化学物質としてATPやNADPというものがあるのですが、ここにリン酸が使われています!!(PはリンをあらわすPですよ!)

②体内のpHの急激な変化を抑制する緩衝材
緩衝というか緩衝能とは、酸性や塩基性の物質を加えてもあまりpHが変化しないようにクッションの役割を果たす能力です。リン酸は水素元素を3つ持つ構造をとっているんですが、pHが高くなると水素を放出、低くなると水素を獲得して中性になるように調整しています。

③ 酵素の活性化の制御
酵素とは様々な化学反応を円滑に進めるための潤滑油ですよね。で、酵素が活性化すると化学反応がスタートして物質Aと物質Bが結合して物質Cになるといったことが起こります。この酵素の活性化というのは酵素にリン酸がくっつくことで起こります。酵素にリン酸がくっつくと活性化、離れると不活性化、といったわけです。

④ 細胞膜など生体膜のメインとなる構成要素
細胞膜などの生体膜はリン脂質というもので作られています。文字通り、外側にリン酸部分、内側に脂肪酸部分という構造で、水や養分の受け渡しをコントロールしています。

2.リンが欠乏すると生産性は…

リン酸は窒素についで生長に影響を及ぼす栄養素です。
通常の条件の下では土壌中にリン酸はあまり含まれないため(数μM程度)、野菜を栽培する畑では施肥の必要があります。ただし残念なことに施肥したリン酸は土壌中で水に溶けづらい形(リン酸塩)になるため、植物にとっては吸収しづらく施用効果はあまり高くありません。こればっかりは仕方ないですね。

皆さんの気になる?欠乏症ですが、リン酸を欠乏すると特に下のほうの葉で欠乏症が目に見えて現れます。リン酸を極端に欠乏すると、葉が小さく暗緑色になるとともに茎数が少なくなります。また、理由は不明ですがアントシアニンの集積も典型的な欠乏症の一つです。

リン酸の欠乏症になるかどうかは植物が求めている最低限を満たしているかどうかに係わってきますが、この最小要求量は植物種に特有の生長速度が関係してきます。
リン酸はエネルギーの生産時に多量に消費されるため、生長が早い種ではその分リン酸の必要量は増加します。ただし、このときに土壌からの吸収量が必要量を満たしていれば欠乏症は現れないため、トウモロコシなど生長の早い植物種ではいかにして土壌からすばやくリン酸を吸収できるかについても生長に影響してきます。

植物はリン酸が欠乏した状態になると急いでリン酸を吸収しようと防衛能力が働きます。
確認されている現象は
①根の本数を増やす
②根からリン酸を吸収しやすくなるように、リン酸の運び屋(リン酸トランスポーター)を普段より多く作って根に蓄積する
③水に溶けづらいタイプのリン酸を溶けやすくする物質を根から放出する
といったものがあります。

3.リン酸吸収の助っ人

土壌中には様々な微生物がいます。微生物には植物にとって害となるものもいれば有益となるものもいます。土壌微生物の一つである菌根菌は植物にとって非常にありがたい菌なのです。
菌根菌が植物の根と共生状態になったものを菌根といい(菌根自体は菌糸です)、陸上植物のおよそ8割が持っています、この菌根がリン酸の吸収を促進してくれるんです。
リン酸は拡散しづらい物質で、ある場所でリン酸が吸収されて濃度が低下したとしても他の場所からなかなか流入してきません。(※拡散しやすい物質だと、濃度が低下してくると他の場所からどんどん流入してきて濃度をある程度均一に保つことが出来るのですが…。)ここで植物の本来の根にプラスして菌根があれば、より広範囲にわたってリン酸を吸収することが出来ますよね。

この根の増加以外にも菌根はリン酸吸収に役立ちます。
ある菌根菌はリン酸を分解する物質を分泌します。この物質によって土壌中の吸収しづらいタイプのリン酸が吸収しやすい可吸体リン酸に分解され、植物が吸収することの出来るリン酸の量が増加します。この方法で吸収されるリン酸量の割合は植物や菌の種類によって変わりますが、植物の全リン酸吸収量の20~80%を占めるといわれています。
つまり、この菌根をうまく活用することでリン酸肥料の施肥量を節減することも可能です。

ただ誠に残念なんですが、アブラナ科植物は菌根を形成することはできません。そのかわり、自身の根から給しづらいリン酸を分解して吸収できるようにする物質を出すことが出来るようです。